バンクーバーのゾーニングを考える


Photo by Thor Alvis on Unsplash

先日、とてもユニークなタイトルに魅かれ、あるウォーキングツアーに参加した。その名も、「バンクーバーの最悪なゾーニング」。バンクーバーの住宅不足問題に取り組む、Abundant Housing Vancouverという地元のグループによって実施されている。

私が住んでいたのは、Kitsilanoという閑静な住宅地だ。ビーチや公園、ブリティッシュコロンビア大学、さらにはダウンタウンにもアクセスが良いという素晴らしいロケーション。この 地域分布マップによると、私が住んでいるこの地域は、主に一世帯〜二世帯住宅地区として区分されている。マンションやアパートではなく、敷地の広い一軒家が立ち並ぶのどかなKitsilanoは、このゾーニングによって守られている。

しかし、つい最近、私が下宿をしている家の家主とルームメイトが、バンクーバーの再区画計画について熱心に話し込んでいるのを小耳に挟んだ。この平和なKitsilanoの将来に関わる重大事だという。なぜそんなにもゾーニングが大切なのか気になり、丁度開催されていたウォーキングツアーイベントに参加することにした。


ウォーキングツアーで私たちが集まったのは、Abundant Housing Vancouverが「バンクーバーでもっともひどいゾーニング」の1つだと主張するウェストポイントグレー地区だ。

この地区は、RS-1という一世帯住宅地区に指定されている。RS-1自体は、珍しくはない。しかし、このエリアの一軒あたりの最小ロット面積は12,000~18,000平方フィート。これは、バンクーバー市内の標準的住宅面積のなんと約4倍にあたるという。

これが単に”不平等”で済まされないのは、バンクーバーが現在まさに、住宅危機に陥っているからだ。

バンクーバーの住宅危機

ある調査によると、バンクーバー市民の9割が、バンクーバーは住宅危機の只中にあると答えた。実際にバンクーバーは、カナダ国内で最も不動産が高騰しており、安価な住宅が圧倒的に不足している。その分給料があがるわけでもないので、低所得者層や学生は、住む場所が見つからず困窮しているのが現状だ。

一方、「バンクーバーの住宅地の76%で、現状のゾーニングでは集合住宅が建てられない」という事実をツアーで知らされ、大変驚いた。Abundant Housing Vancouverは、より多くの人々に安価な住宅を提供し、住宅危機を乗り越えることを目標に活動している。そのためには、バンクーバーにより多くの住宅を高密度に建設する必要があるが、既存のゾーニングでは、これが難しいことになる。ウエストポイントグレー地域周辺など、富裕層のみが住む低密度の住宅地のゾーニングが強固に守られているのも、問題を加速させていると彼らは痛烈に批判する。


ウェストポイントグレー地区における、現在進行中の一戸建て住宅の建設

統計と都市区分をチェックすると、いろんなものが見えてくる

2016年の調査によると、ウェストポイントグレー地区の人口はたったの402人。一人当たりの面積は16,362平方フィートにあたる。それに対し、例えばバンクーバーの西部の人口密度は、一人当たりたったの465平方フィート。この差にはちょっとギョッとする。

さらにツアーでは、バンクーバーのさまざまなデータや空間分析を紹介するMountainMath Mapsが提供する、興味深い地図を教えてくれた。バンクーバーの住宅データが視覚化されており、大変分かり易い。

この地図で、「税密度」をキーワードに検索をかけると、更に興味深い事実が見えてきた。富裕層が悠々と暮らすウェストポイントグレー地区は、土地の平方メートルあたりの税収が、市内の他のエリアに比べ、なんと非常に少ないのだ。市民が腹をたてるのも、分かる気がする。

不動産価格が高騰を続けるバンクーバーでは、各エリアでゾーニング改正の動きが始まっている。不動産所有者は、土地区分改正の申請を市に対して行うことができ、現在の土地の活用方法や容積率を変更することができる。もちろん、容積率を単純に引き上げてより多くのアパートを建設することが、バンクーバーの深刻な住宅不足を簡単に解決してくれる訳ではない。容積率を急に引き上げてしまうことで、例えばKitsilanoのような閑静な住宅街に急に高層マンションが建つなど、地域の魅力を損ねてしまう可能性だってある。

ただ、私が今回のウォーキングツアーから学んだように、その土地の都市区分を理解することで、多くの教訓を得ることができる。都市区分の現状を眺めるだけで、デモグラフィー、密度、規制や税収などへの理解が深まるし、我々が普段何気なく過ごしている都市環境の一定の形態が、(都市区分など)特定の方法で形成されている、という事実も実感する。

バンクーバーの、ひどいゾーニング。もっと都市区分というものに、注意を払う必要があると思った。