まるでジブリの世界?ガスタンクの廃墟がそのまま残るガスワークス公園

Gas Works Park, Seattle Place ・ Aug 4, 2018

アメリカの公園といえば、ニューヨークのセントラルパークがすぐに思い浮かぶと思いますが、他にもアメリカには多くの素晴らしい公園があるのをご存知でしょうか?歴史的・政治的背景や、デザインの意図を紐解いていくと、日本でも参考になるような面白い公園の事例が、アメリカにはゴロゴロ転がっています。

シアトルのダウンタウン対岸、ユニオン湖のほとりに位置するガスワークス公園は、国の歴史遺産にも登録されている非常に有名な公園です。1975年に一般向けにオープンし、77,000m2の広々とした緑の美しい都市型公園ですが、何がそれほどまで特別なのでしょうか?

以下、「公園のリノベーション」というテーマで、ガスワークス公園の魅力を紹介していきます。

シアトルの街を支えた、石炭ガス化工場

ガスワークス公園に足を踏み入れてまず目に入るのは、公園の真ん中に佇む、なんとも存在感のある産業工場跡。錆びついた骨格に、年月と共に植物が絡みついて、まるでジブリに出てくるお城のような存在感です。 この公園の歴史を知らずに訪れた人には、なぜここに古い工場跡があるのか、驚くことでしょう。

実はこの土地、ダウンタウンに近接する一等地でありながら、50年もの間、石炭ガス化工場用地として使われていきました。ここでつくられた電気は、当時シアトルの街灯と住宅の電灯として、人々の生活を支えましたが、一方で、周囲の空気も水も、このガス化工場のせいで汚染されてしまったのも事実です。



1906年から1956年まで稼働していたこの石炭ガス化工場は、閉鎖後、産業廃棄物や工場の建物がそのまま廃棄され、目も当てられない状態だったといいます。また、50年にもわたる産業利用のため、この場所の土地は非常に汚染されていました。緑の芝生が圧巻の現在の姿を見ると驚きの歴史です。

シアトル市が公園を作るためにこの土地を購入したのは、1962年のことです。


産業廃棄物と工場跡をそのまま残す?!大きな論争をよんだリチャード・ハーグの挑戦

公園のデザインに任命されたのは、シアトルのランドスケープアーキテクト、リチャード・ハーグ。このリチャード・ハーグが「産業工場跡をそのまま残さないか?」と提案したことで、大きな論争が巻き起こりました。当時は、産業用工場跡地の痕跡を少しでも残して公園を作る前例はありませんでした。


「多くの人が、このアイデアは気が狂っていると反対したよ」。

ドキュメンタリー「アメリカを変えた10つの公園」のなかで、リチャード・ハーグは当時の様子をこう語っています。今でも、産業廃棄物がむき出しのまま残った公園に反対している人はいるともいいます。しかし、リチャード・ハーグの意図は、歴史を無視し、その痕跡を消し去るのではなく、シアトルの重要な過去と向き合い、その遺産に新しい価値を付与することでした。いくら汚染の歴史とはいえ、産業革命は確かに起こり、そのエネルギーが都市における人々の生活を支えていたわけですから。

「ゴミを愛でるなんて出来ない」と反対する人々を押し切って、リチャード・ハーグは工場跡の最もアイコニックな建物をいくつか保存することに成功しました。土地も水も汚染されていた、目も当てられない汚い工場跡は、バイオレメディエーションなどいくつかの処置によって、現在の安全で美しい公園になっています。

過去の遺産を引き継ぎつつ、都市に眠る「公共」の可能性を掘り出す

誰もが「ゴミ」として無視し続けていた都市の一角を、市民が休日に訪れる華やかな公共空間として生まれ変わらせたリチャード・ハーグ。保存された工場跡をさして「絶滅した種族が、ここには残っている」と語る彼にとって、人々がこの公園に足を運び、楽しみつつ、シアトルの過去に思いを馳せる現在の風景は、まさに望んでいたものでしょう。

シアトルに訪れる際は、ぜひガスワークス公園の緑の芝生に腰をおろし、目の前の湖でボートを楽しんでいる人々を眺めたり、丘を登ってダウンタウンの景色を楽しんでみましょう。廃墟が好きな人には、工場跡の建物はたまらなく魅力的でもあります。


安全や汚染を気にすることなく人々が集うことのできる、都市の中心にある公共の公園。どの街にも、忘れ去られ、打ち捨てられているけれども可能性のある土地は多くあるはずです。そうした土地をハックして、公園として市民に解放してみたら?そんな想像が広がる、ガスワークス公園のリノベーション事例でした。