アメリカで建設が進む、 未完成の実験都市、アーコサンティ

Arcosanti, Arcosanti Place ・ Jun 27, 2018

アメリカ南西部、アリゾナ州。州都であるフェニックスから110キロほど北に、現在も建設が進む未来都市構想の実験 地があるという。砂漠のような殺風景な風景を横目にハイウェイを走ること数時間。舗装もされていない脇道を抜ける と、何もないように見えるアリゾナの大地に突然、都市実験区(Urban laboratory)の肩書きをもつ、アーコサンティの看板が見えてくる。

約10ヘクタールの敷地に、アーチ型の屋根が特徴的なコンクリートの建築群が並ぶ。砂漠地帯の風景に上手く溶け込む赤茶色のシルトで出来たパネルや装飾がユニークで、その佇まいはサイエンスフィクションの世界のようだと言えなくもない。


モダニズムの巨匠、フランク・ロイド・ライトにも師事したとい うイタリア系アメリカ人建築家パオロ・ソレリ(1919–2013)が、建築(architecture)と生態学(ecology)の融合であるアーコロジー(arcology)をテーマにアーコサンティ(Arcosanti)の建設をはじめたのは、約50年前のこと。アメリカの車社会に 基づいた平面的な都市のスプロール化に嫌気がさしたパオロ・ソレリは、自然の生態系を壊すことなく都市機能を拡張させ、生産と消費が内部で自己完結するサステイナブルな都市システムの構築を唱えた。職住近接を実現させ、ウォ ーカアビリティを向上さて車の必要のないライフスタイルを提唱。現代都市の抱える問題を解決する理想郷として、アーコサンティ開発がスタートした。




しかし、パオロ・ソレリの失職と死去により建設は一旦停止。50年経った現在でも、全体のプランの5%しか実現していない。しかし、現在もソレリのビジョンを受け継いだ建築家や都市計画家、アーティ ストが住み着き、独立したコミュニティとしてこの実験的な「都市」を完成させようとしているという。私たちがここを訪れた2018年夏の時点では、世界中から80名ほどがこの「都市」に移り住み、少しづつ手作業で完成を目指している。住居やコミュニティスペース、メインホールや食堂など合計25エーカー分の建築群を、実際に訪れ、住民の生活の様子や、自治的なコミュニティのあり方を、目にすることができた。 完成したあかつきには、約5000人を収容できる理想の都市になると言われている。




パオロ・ソレリのビジョンと、アーコサンティでの生活について語る住民の男性。

可能な限り自然エネルギーを使用しているアーコサンティ。冷房を使用していないにも関わらず、風の循環が良いため非常に涼しく感じる(因みに外は40度以上の砂漠)。


アーコサンティの全体像。Photo by Cory Doctorow, flickr



2017年には、#metoo運動の関わりのなかで、パオロ・ソレリの実娘が、生前性的虐待を受けていたことを告白している。そんな経緯もあり、なかなか手放しでアーコサンティを賞賛することは私には出来ないけれど、建築と生態学の合いの子である「アーコロジー」というテーマが、50年経った今でも非常に重要な意味を持っているのは、確かだ。そして、砂漠のなかに一からひとつの都市を作って、このビジョンを実験してみよう、という壮大な試みと、今でもそれが細々ながら支持されて続けているという寛容さが、いかにもアメリカらしい。21世紀の私たちの都市に必要なのは、このような柔軟な発想と、執拗なプロトタイプづくりなのかもしれない。